チマッティ神父記念コンサート
第三部 オペレッタ 『カルマ』 全2幕
1955年作 V.チマッティ作曲 鈴木恒夫作詞

2010/08/07更新


カルマ      神々の司祭
宣教師  
ブハイ君 宣教師から救われた子供
アイヤララ 知恵遅れの人
アルジューマ 仙人
群集のコーラス  
子供のコーラス  
その他 幻の悪魔・住民、 幻の「金のゆり」子供、 ジャバダサ王)

 

プロローグ

神々の司祭カルマが主権を握ってから悪事を繰り返し、子供のいけにえまでも行い、恐怖でその国を支配していた。しかし、亡命の地でキリスト信者となったジャバダサ王が故国に戻り、国民は宣教師の指導でキリスト教を受け入れ、平和のうちに日々を送ることになった。

 一方、追放されたカルマを苦しめるものがある。それは、過去の罪を思い出す時の呵責。それは、昼となく夜となく彼の脳裡をかすめ、失望の深淵におとしめる。反面、彼の心の片隅に残る故郷をしたう心は、困難、恥かしさに打ち勝って、故郷へと足を向けさせる。しかし、ゆるしは得られるのであろうか。このプロローグは、その心の中葛藤を描く。

 
1 カルマと合唱
合 唱 罪無き者の犠牲(いけにえ)をもて 紅(あけ)の血にそむ 汝(な)が腕(かいな)見よ 、      
偽りの神々にこそ 汝が希望(のぞみ)おけ 呪われし者
カルマ やすらいの地を求めつつ さすらいの旅路続け
我を受けし地を求めしに 見出さずして
我は帰れり我が故郷に 我が故郷に。
合 唱 呪われし者よ、遠く去り行きて 再び帰るな平和の国に。      
帰るな、帰るな!平和の国に。 呪われし者よ遠く去り行きて 
呪われし者よ再び帰るな 平和の国に、呪われし者!
カルマ 我を生みし 故郷よ 汝(なれ)も又 我を受けずや?      
さすらいの五年(いつとせ)に 身も心も絶えなんとす、我が故郷よ
 
2 カルマと合唱
カルマ 夢路に辿るあの野山 思いや馳せるあの小川
望みなき身のわびしさよ 捨てた故郷 我を呼ぶ
合 唱 などか ためらうことやある 求めよ愛と許しをば。
カルマ 愛して、許す者あらば
合 唱 求め願えよ 故郷に 故郷に!
           
第一幕
宣教師は、毎日、信者たちと共に平和な生活を送り、子供たちに教えたりして、時々、祖国を思い出しながらその歌を聞かせる。
 
3 宣教師  (サンタ ルチア)
しかし、ある日の夕方、カルマが戻ってきたという噂が流れる。心配している信者たちは、宣教師に特に夜中に警戒するようにと促すが、宣教師は神の保護を信頼して、安心するようにと諭して、皆と一緒に祈ってから家に帰す。その前に、信仰を持たず、迷っている人々のためにラテン語の歌を歌う。
 
4 宣教師・ブハイと群集
  (主祷文、天使祝詞を主題とする夕の祈り)
宣教師 天に在(ま)す 我らの父よ      
御栄え永遠に 汝(なれ)にあれませ。
群 集 汝がおぼしめし 天(あめ)の如くに      
さすらいのこの世にも また、あれませ。
宣教師と群集 天(あめ)に在す父よ 我等の父よ 
恵みと許し 与え給え。      
引き給わざれ 汝(あだ)の試みに      
引き給わざれ。      
与え給え 
恵みと許し 与え給え。
ブハイ 御母マリアよ 永遠のおとめよ      
我が枕べに 立たさせ給え。
群 集 御栄え永遠に あれませマリア、      
永遠の御栄え 主にあれませ。
 
5 宣教師の独唱
   (ラテン聖歌 ウト オムネス エランテス)
  Ut omnes errantes ad unitatem ecclesiae revocare
Et infidels universos ad evangelii lumen perducere digneris
Te rogamus audi nos, te rogamus audi nos     
  すべての誤謬に沈める者を教会における一致に呼び戻し給わんことを。
また神を知らざるすべての民を福音の光へ導き給わんことを。
主よ、御身に祈る我等の願いを聞き入れ給え。
 
ところが、信者たちは当番を決めて周りを警備し、ついに教会の近くに潜んでいるカルマを発見して追いかける。カルマは、宣教師のところに逃げ込む。
 
6 宣教師とカルマ
宣教師 カルマ! ついに帰り来たるや
御身の帰るを待ち望めり。
カルマ 待ち望めり?
宣教師 しかり。
カルマ 何故(なにゆえ)に待ち望みたるか?
宣教師 御身を友になさんためなり、      
御身と共に神をあがめんためなり。
カルマ 友に?愚かな者よ! 我 いかで汝の友たり得んや。      
わが神々を汚したる者よ いかで汝と友たり得んや、      
邪教を教え、司祭と民を惑わせし者 友たるを得ず!
宣教師 神を汚さず、惑わしもせず 神ただ一人尊くませり、      
国をも民も越えて存(ましま)す 唯一の神の真(まこと)の教えに      
耳傾むけよ、眼(まなこ)開けよ 神の教えに耳傾むけよ!
カルマ 友たるを得ず、命にかけて 神々の司 偉大なる者      
神々の司、偉大なる者 否! 我聞かず!      
ヴィシュヌ偉大なる者
 
群衆が迫ってきたところ、宣教師はカルマが聖堂の中に隠れるようにする。見えなくなったカルマを信者たちは周りを探すが、聖堂に入ろうとする時、宣教師から止められる。ただ、知恵遅れのアイヤララだけは刀を持って聖堂に入ろうとする。宣教師は、刀を置くようにと指示するが、中に入っているカルマがばれてしまう。
 
7 群集の合唱
群 集 カルマ カルマ! 汝はなにゆえ戻り来たるや       
我らの平和 乱さんとてか。 早く去りゆき、戻り来るな       
我らの平和 乱すべからず。 カルマ カルマ!
 
8 アイヤララの独唱
  カルマ、カルマ、あわれめよ 大変 大変 助け給え。       
諸君 こんなに善い男が今死んだら 世界は闇になってしまうよ!(繰返す)
おふくろもがっかりして死んでしまうよ 死んでも命があるように(一回目)
いやだ!いやだ! ああ、死ぬのはいやだ!(二回目)
 
9 宣教師とブハイ(二重唱)
宣教師は、群集を静めてから、皆を家に返す。そして、カルマと会って話すが、カルマは宣教師の言葉を受け入れないで、聖堂を出て逃げる。 ブハイ君は、聖堂の中に隠れていて、宣教師とカルマが交わした言葉を聞いていたので、宣教師と一緒にマリア様に祈る。
  (天使祝詞を主題として)
  めでたしマリア めぐみあふれ       
おみなの内にて 祝せられます、       
宿ります主も 祝せられます。      
神の母 聖なるマリア        
罪人なる 我らのために       
今も臨終(おわり)にも 祈り給え。      
めでたし マリア!
           
第二幕
カルマは教会の近くの森に隠れている。倒れかかっている神々の像を見ながら、信者の歌を聞いている。
 
10 独唱と合唱
独 唱 小鳥よ なに求め さえずり続け 飛び行く       
迷える子 求め、尋ね探しつ 飛び行く。
合 唱 戻れ友よ故郷へ 母のやさしい翼へ       
帰り来たれ汝(な)が家に 待ちわぶいとしき母へ
独 唱 迷えるいとし児よ 愛の翼を開きつ       
待ちに待つ我に 帰り来れよ わが子よ。
合 唱 前と同じ
 
11 アルジューマとカルマ
隠れているカルマのところに、仙人アルジューマが現われる、そして、憎しみに満ちている彼の心に、真の愛の意味を諭そうとする。
カルマ アルジューマ! なつかしき故郷(こきょう)を去りて早や五年、      
いか程の苦しみを受けしかを語り得ず。
アルジューマ そは正義なり。
カルマ 正義? いずこにありや?
アルジューマ 神の御もとにあり、神これを計り給う。
カルマ 神の正義は恐るべきなり。 見よ、我はけものの如く
地に這い、空に叫ぶ。 されども我が祈りは聞き入れられず。
アルジューマ 否! しからず。
カルマ 見よ! 我が眼は涙は涸(か)れ、 むせび泣きするあたわず。      
くやみの涙すら与えられず。
アルジューマ カルマよ、その言葉は 神を試みるものなり。
カルマ 神の正義はおごそかに 恐れおののきふるうべし       
我には人の亡ぶるを 定め給うとおぼゆなり。       
神にして愛あらば  いかでか亡び行く我を       
望みなきよ世に捨てるべし 恐るべき神の正義。
アルジューマ されども、人の亡ぶるを 望み給うは道なれり、       
亡びに臨む魂を 尊き愛もて抱き寄せ       
羊の群れに加うべし。 望むべし愛は すべてを恵む神の愛を
カルマ 我もまた望む。 我もまた望む。
アルジューマ 望む!望む!
カルマ されども我が罪は、我が罪は、
アルジューマ 望む愛を! 望む愛を!
カルマ しかり 望む神を。望む神を! 望みは命への歩みなり。
アルジューマ 望みは命への歩みなり。
カルマ ゆるしを
アルジューマ 願え慈悲を
カルマ 友よ、祈れ 汝が神に
アルジューマ 祈れ 汝が神に 祈りは命への歩みなり。
 
アルジューマが去って、真の愛を悟れず、まだ刀を握っているカルマがいる森の中に、ブハイ君が遊びに来て、無邪気に歌を歌う。
 
12 ブハイ(独唱)
  マリアの森に さえずる小鳥 誰に祈って 歌っているの、      
お前をつくった 聖主(みあるじ)さまの やさしい母に 祈っているの
マリア マリア マリア!
カルマは、ブハイ君の腕を捕まえて、以前、神々へのいけにえとしてささげよとした子だと分かる。そして、殺そうとする。ブハイ君は、恐れることなく、敵を憎んではいけないことを教えられたと、また殺されてもカルマを赦す、と言って、そのまま気絶する。その言葉に打たれたカルマは後悔し、自害しようとするが、その時アルジューマが現われて、その手を止める。神は、ブハイ君の態度を通して真の愛を示してくださったではないか、と諭す。その時、マリアの賛歌を歌う信者たちの声が聞こえてくる。
 
13 独唱と合唱
  Magnificat anima mea Dominun        
  我が心は救いの主に喜び歌う。      
Quia respexit humilitatem ancillae suae         
  大いなる力 我に臨みたり        
  聖なるかな その御名。      
Et misericordia eiu a progenie in progenie  
  腕(かいな)の御力を現し         
  おごれる者を散らし給う。      
Deposuit potentes de sede        
  うえたる人に よきものを満たし        
  富める者を 空しくなせり。      
Suscepit Israel  
  世々の御誓い(ちぎり)を忘れず        
  イスラエルの子を 恵み給えり。
この時点で、宣教師や信者たちが舞台に入り、ブハイ君がいないことに気づく。そして、現われてきたアルジューマから呼ばれて、ブハイ君を抱いているカルマが入ってくる。それを見て、みな驚く。
 
14 宣教師、アルジューマ、カルマと群集
アルジューマ カルマ 来たれ!
群 集 神の御恵み野山にあふれ 平和と正義くちずくる国       
再び乱れ 血で血を洗う憎しみの国 カルマもたらす。
宣教師 恐るるな、わが子らよ 神の業 頼むべし。
群 集 去れ! 去れ! 早く去れ!
アルジューマ 見よ 汝らの司祭を
群 集 我らの司祭はカルマにあらず この司祭こそまことの司祭。
アルジューマ しかり、すでにカルマは司祭にあらず       
見よ、ゆるしを求めて 汝らの友たるを望む。
群 集 聖なる者よ、まことにあらず、我ら再びあざむかれじ。
宣教師 愛とゆるしを求める友が いかで我らの仇たり得むや。
カルマ 御身らの疑いと恐れはまことなり。 さすらいの旅路に出でてより
早や五年 見よ!我が体は衰え 眼はくらむ 
古の罪は我を責め しばしも憩うあたわざりき。
宣教師 いたわしや 友よ!
カルマ 我を生き永らえしむる希望(きぼう)は ただ一つ…
宣教師 語れ友よ! 我ら聞かん。
カルマ 空のかなた まさやけく 舟路示す海の星。       
我が行く彼方 照らしたり 海の星。
宣教師 海の星
群 集 海の星 海の星。
カルマ 嵐の夜半(よわ)に ただ一つ 行手を示す海の星       
聞けるその名が 我が望み。
宣教師 マリア!
群 集 マリア!
宣教師 その名
群 集 マリア!賛えられよ 母の御名マリア       
固き心をも 抱きはぐくみ給う。
宣教師 春の日ざしがヒマラヤの雪 暖めとかし流すごと。       
友よ 来たれ。
カルマ ゆるせ友よ、我が罪をゆるせ、友よ。 
我が罪をゆるせ友よ、悪しき夢。
宣教師 神に願え ゆるし願え おお悪しき夢。
群 集 大いなる神の業 大いなるマリア
一 同 おお マリア マリア アヴェ。       
やさし后 神の母よ       
すべての人の望みの母よ       
愛の母よ 神の母よ       
み使いの后 人の母よ       
感謝の歌を受けたまえ        
母マリアよ
 
15 フィナーレ
全 員 天の后よ 神の母よ 力求める 子らの祈りに       
耳傾むけて 聞き入れ給え 力ある母 強きおとめよ       
悲しみなやみに 馳せ来りませ 御力給え 天の后
ブハイ 清き白ゆり 愛燃ゆるバラ       
マリアの御名に したいよる我       
捨て給わざれ 今もいつも マリア。
合 唱 御母マリア かおる青葉の もとにたたずみ       
御子示しつつ ほほえむマリア       
きこし召せ 汝に捧ぐる 我らの歌声をば。
宣教師 アヴェ マリア たすけませ       
我らの御母マリア。
合 唱 あわれみと 愛にます       
天の御母 我が母       
アヴェ マリア アヴェ マリア!